僕だけが見える青い空へ

第一章 認めたくないもの(2)
(AOMINE)



 近付いて来る人の気配とは逆方向へと、黒子の腕を引いて自販機コーナーを離れる。
 小走りまではいかないほどの少し早めの歩調だ。青峰としてはいっそ走りたいくらいなのだが、黒子の足がまだどことなく危なっかしくて無理そうだった。それでも、腕を引く青峰に抗う様子もなく、どこへ行くのかとも特に訊ねず、足元を少しよたつかせながら、黒子は青峰に付いてくる。

 この総合体育館の見慣れた廊下。
 日暮れ後のこのくらいの時間帯。
 そして、黒子の腕を引きながら、二人で歩いているこの状況――妙な既視感がある。
……?)
 廊下を歩いていると、あちこちから談笑や足音が聞こえてきて、館内にはまだまだ人が残っているらしかった。そんな人の気配を避けるように、二人で階段を一つ降りる。と、そこは、本日は使われなかったフロアらしくて、廊下の照明が間引かれており、他階よりもやや薄暗い。空調も効いてないのか空気が冷えている。青峰と黒子の二人のシューズの音だけが静かな廊下に響く。
 いっそうの既視感を覚えながらも、青峰は目に付いた競技者用の控室らしきドアを適当に開けて、黒子をそこに連れ込んだ。人目のない隔離された空間ならばどこでもよく、その部屋を選んだのは本当に適当だったのだが。
……あ?)
 その無人の控室に足を踏み入れた途端――青峰はそれまでの既視感の正体になんとなく気付いた。
 が、黒子と二人きりの場を確保したばかりのこの状況的に、そんなことにかまっている余裕や堪え性なんて、あまりない。
 とりあえず欲しいものを早く欲しい、とドアを閉めるとすぐに白い顎をつかみあげ、
「テツ」
 一呼びしただけでもう黒子の唇にかぶり付いていた。

 何ヶ月ぶりかに青峰とはみ合うこの口唇の形、青峰が絡め取るこの小さな舌の厚み、この狭めの口腔のやわらかさと、微かに甘く感じられるこの生ぬるい唾液の味。これは、青峰がずっとむしゃぶり付きたくて堪らなかった唇だ。そう、こうやって青峰の思うままに。
「ンっ、ふ……は、っ……ッ」
 身構える間をほとんど与えられずに派手に口腔を弄られることになった黒子のほうは、少し苦しそうだった。青峰の手で高く持ち上げられている顎の角度もまた辛いらしく、反り返った白いジャージの背中が不安定に震える。細い腰が堪えられずにすぐにも落ち込みそうだ。それでも身を支えようと、黒子の片手が青峰のジャージをつかみ、生地をぎゅっと握り込んで青峰にしがみ付く。
(テツ……
 黒子にどこか縋られるかのようなその感じに、青峰は貪る勢いを甘く宥められた。
 黒子の腰をかかえて向きを変え、黒子の背中を壁際へと誘導してやる。壁に背を付けていれば少しは身を支えやすいだろう。青峰もまたいろいろしやすい。持ち上げていた顎の角度も次第にゆるめ、青峰のほうが屈んで黒子の唇を掬うように変えてやる。
 そうしてやや楽になった姿勢に、黒子が息を深めた。
「は……っ、…ぉみね、く」
 青峰と触れ合ったまま唇が青峰の名を象って動き。それをまた青峰が唇ではんで辿り撫でる。
 勢いをゆるめたぶん、洩れる黒子の吐息を一つ一つ追ってさらってやる。黒子がこういうあやされるようなキスや愛撫に弱いのを青峰は知っている。青峰の手にジャージのファスナーを引き下ろされても特に嫌がる様子もなく。黒子のほうからも、少しずつ青峰に応じて舌を絡めてくる。
 しかし、壁に背を付けていてもなお今の黒子には立っているのが辛そうだった。キスでいっそう力が抜けるのか、次第にずり落ちそうになるので、青峰が黒子の片腕を壁に押し付けて、そこで黒子の体重を幾らか支えてやる。

――……この壁)
 青峰が黒子の腕を押し付けているこの壁。
 非常に既視感のある壁だった。
 選手用の控室なんて、どこの競技場でも似たような造りだろう。
 まして、同じ会場内の控室となれば、どの部屋でもそっくりな構造に違いない。
 しかし、この部屋のこの壁には特徴がある。出入口のドアの横壁、ちょうど今、青峰が黒子の片腕を押し付けている所の少し上あたり。誰かが書いたらしい小さなラクガキがあるのだ。あのときも黒子の腕をこうして壁に押し付けていたから、このラクガキを見た憶えがある。 
(やっぱ、ここ、同じ部屋じゃねーか)
 半年前の東京地区インターハイ予選決勝リーグも、この総合体育館で行われている。桐皇と誠凛が対戦するそのリーグ戦の数日前、青峰は黒子と逢い、閉館中のこの会場に黒子を連れ込んだ。それがこの控室だった。
 あのときも連れ込んで最初にキスをした。しかも久し振りだったから、青峰なりに想い入れを込めてした気がする。が、そのキスの最中に、黒子に噛まれてしまったのだ。
 今日はどうやら噛まれないらしい。
 こいつ相手だ、噛まれようと、殴られようと、青峰はもうかまわないつもりでしてはいるが。

……っ、ぅあ……っ」
「ッ、おっと」
 壁に意識を向けていたせいで、一瞬、黒子を支え損なった。黒子の背中が壁からずり落ちてしまい、咄嗟に青峰が腕を引き上げる。だが、立っているのはもう無理そうだと、黒子の腰を床に降ろしてやった。
「なぁ、テツ。この部屋、憶えてっかよ?」
「この部屋……ですか?」
 青峰に言われて、黒子が室内を見渡す。
 室内の照明は点いてないが、真っ暗ではない。出入口のドアに磨りガラスの小窓が付いていて、その窓から廊下の蛍光灯の光が射し込んでいる。
 黒子が首を傾げて視線を巡らしている間に、青峰の手が黒子の下肢の着衣へと及んでいく。白いジャージの上着はもう脱がしていて、トレーナーも半ば捲り上げている。壁に凭れて床に腰を付けている黒子はどうしても疲労感が拭えないようだが、青峰がすることに抗いはしない。青峰に鎖骨を噛まれてびくと肩を震わせ、青峰の手に性器を弄られて息を散らす。
……っ、ぁ、ここは――
 室内を茫洋と見回していた黒子だが、思い当たったようだ。
「半年前に……僕が君に強姦された部屋ですよね」

 強姦。
 聞き捨てならない言葉に、オイ、と青峰は黒子の首筋から顔を上げる。

「あれは強姦じゃねーだろ」
「いえ、あれは強姦でした」
「ちげーって」
「違いません」
「強姦じゃねぇ、つってんだろ」
「いいえ、間違いなく強姦です」
「テツ、てめぇ、しつけぇよ!」
「青峰君こそ、しつこいです!」
「俺が強姦じゃねぇ、つったら、ちげーんだよ」
……君、それ、どーいう王様理論なんですか」

 確かに、あのときは少し強引にしてしまった憶えはある。火神のことで頭が沸騰していたから、自制が効かない部分もあった。が、青峰としては、黒子をちゃんと抱いたつもりだったし、それに、青峰は認めたくないものは認めないのだ。あれが強姦だったと認めてしまうと、己が黒子に拒絶されていたことまでも認めねばならなくなる。だから認めない。
 だが、黒子も根に持っているのか、主張を折ろうとしない。
 頑固な黒子を見おろして、ハー、と青峰は嘆息を吐いた。
「じゃー、これも強姦なのかよ?」
「これは」
 薄暗い室内に、床に座り込んだ黒子の剥き出された白い肌が映える。青峰の手中の白い性器は、その先走りで青峰の手を濡らし始めていて、小さな水音を立てている。
「ン……っ、これ、は」
 熱を帯びた息を室内の空気に混ぜ、黒子が青峰を見あげた。その火照った息とともに、黒子の唇が青峰の唇を下から啄む。
「これは、違います……
「どう、ちげーんだよ。同じじゃねーか」
「全然、違いますよ。こうするのわかってて……君に付いてきたんですから」
 今日の黒子は青峰に全く抗わない。つまり、黒子の意思の問題ということなのだろう。
 そりゃそうだろうが、と黒子の唇をはみ返してやりながら、青峰としては納得し難いものがある。
 あのときと場所も同じ。時間帯もほぼ同じ。青峰が黒子の腕を引いてここに連れ込んだという点も同じだ。季節は真逆だが、むしろ冬場の今日のほうを躊躇すべきだろうに。試合の数日前と試合直後という状況は確かに違うものの、今日勝ち残った誠凛には次の試合も当然あり、大事な試合を目前に控えているという点では今日のほうが重要ではないのか。
「お前にとって、今日がよくて、あんときがダメ、っつーのが、わかんねーわ」
 すると、青峰のジャージの襟がいきなり黒子の両手にぐいっと引っ張られた。薄暗がりの中、水色の大きな双眸が青峰をキっと睨み上げる。
「っ、テ……?」
「君はっ! 僕がどれだけの覚悟で、君との試合のコートに上がっていたと思ってるんですかっ」
 二人しかいないこのフロアの、このとても静かな隔離空間。
 予想外の強い声音を黒子に出されて、青峰はちょっと驚く。が、黒子のその声音はすぐに強さと勢いを失って、少し上擦るものになった。
「可能性がゼロでない限り、あきらめることだけは絶対しないつもりでした。でも、勝てるなんてとても思えない、ゼロに近いとわかっている可能性を必死に信じて、青峰君に……君に立ち向かって、戦うために……僕は君の敵に……敵なんかになるためにっ、コートに立たなくてはならないのに」
 青峰を睨んでいたはずの強い双眸は、やがて過剰な水分を帯びていき、光と影の彩を揺らめかす。
「テツ」
 青峰が黒子を腕に抱き込んでやったときにはもう、それは決壊してあふれていた。
「それなのに君とこんなこと。こんな、覚悟が揺らぐようなこと! 君が……恋しくなるようなこと……できますかっ」
――。そうか……そうだな」

 胸元が濡らされているのを感じながら、青峰は黒子の髪を梳き撫でる。こうしてやっていると、黒子の寝癖は少しずつ落ち着いてくるのだ。帝光中時代からそうだった。だが、青峰の胸元で上擦っている声のほうは酷くなるばかりで、呼吸も啜り上げるようになってしまって、まったく落ち着かない。
「僕は……君と一緒にコートに立つ、って……。君と一緒にコートに立つはずなのに。なのに、君の敵になって……僕はコートに……。僕は、君と……一緒に、バスケを、だけど、」
――
 あー、まずいな、と青峰は思う。泣いているこいつに引きずられそう。宥めてやっているつもりなのに、青峰の涙腺までも次第に揺るがされてくる。

『いつか、一緒にコートに立とうぜ、テツ!』
『はい』

 黒子がまだ三軍だった頃、第四体育館で居残り練習をしているときに、青峰が何度か黒子に掛けていた言葉。
 三軍の奴等なんて大半はろくに練習もしていない。だから、三軍用のあの第四体育館は、いつもひと気がなかった。黒子だけが遅くまで居残って懸命に練習していた。青峰はそんな黒子をそばで見ていたから、あんな言葉を度々掛けていた。こいつと一緒にコートに立てたらと思ったのだ。
「泣くな、テツ」
 さすがに俺が泣くわけにはいかねーだろ、と己を紛らわすようにそんなことを言って、青峰は寝癖の付いた黒子の髪を何度も掻き撫ぜる。けれど、それだけでは気が紛れず。
「泣くな」
 濡れてしまった己の胸上から黒子の顔を掬って、腫らしたその目元に口付けた。滲んだ雫を舐め添い、青峰の舌先に浸透していくその少ししょっぱい甘味に、眉間がどうしても震える。口元を小さく歪めることで辛うじて堪えた。
 それから、黒子に言った。
「なぁ……いつか、一緒にコートに立とうぜ、テツ」
「!」
 黒子が息を詰め、濡れた双眸で青峰を瞠った。喘ぐように口元を少し蠢かしてから、必死そうに笑みを象る。
「はい」
 今後、二人が同じチームで戦う「光」と「影」になることは、おそらくないだろう。どこかの草バスケや遊びでならばともかくとして、少なくとも公式戦ではまずありえない。
 だから、これは叶わない約束になる。
「可能性がゼロじゃねぇ限り、テツはあきらめねぇんだろ」
……っ、そうですね、当然です……あきらめません」
 じゃあ、俺もあきらめないでおくか、と青峰は思う。
 もう少し、自分達は「光」と「影」の関係のままで。
 たとえ青峰の今のバスケスタイルが個人プレーにひどく偏ったものになっていても。たとえこの「影」に、青峰よりも相応しい「光」が現れてしまったのだとしても。

(こいつは――俺の「影」だ)


§


「テーツ」
 黒子の耳朶を舐めながら、そこに息を吹きかけて囁く。
「ホラ、俺の、もっと擦れよ」
「んっ、はぃ……っ」
 黒子に青峰を触らせて、青峰は黒子を弄っている。
 しかし、黒子の手のほうは、まともに青峰を扱けているとは言い難い。青峰の手に弄られて息を乱しているせいもあるが、今の黒子は動作一つ一つがどうしても緩慢だった。まばたきすらも、どこか気怠そうに見える。
 そんな黒子の拙い手淫でも、それが黒子の手だというだけで十分屹立している己も己だと青峰は思う。だが、青峰をそうさせる理由はもう一つある。
「は……っ、……ぁっ」
 疲労していても、動きが緩慢でも、黒子は青峰がすることにちゃんと反応はする。白い性器は赤い先端を覗かせて青峰の手中で蕩けているし、青峰が這わせる舌や唇や指の動きに黒子はぴくぴくと肌を震わせている。
 ただ、疲労感を帯びた躰は何をするにしても体重をどこかに預けがちだ。今も火照った頬を青峰の肩にくてりと乗せて、そこで喘いでいる。泣いた目元は濡れそぼって赤く腫れ、その水色の視線は茫洋と浮遊する。それでいて、青峰にされるだけというわけでもまたない。黒子なりに懸命に青峰に返そうとしてくる。そんな脱力した白い身が中途半端に着衣を残され、薄闇の中で大事なトコロばかりあばかれている情景は実に卑猥だ。
(なんか、いつもより、エロ……
 いつもより、と言うほど、交わせてないのが自分達の現状であり、最後にしたのは四ヶ月前、夏の台風の夜にたまたま逢ったときだった。そのさらに前となると、黒子に強姦だと主張されている例の半年前の六月まで遡ることになる。だから、いつもより、という表現をするのは語弊があるかもしれない。
 しかし、青峰的な表現をするなら、今の黒子の様子はいわゆる――俺とヤった後のテツに近い――だった。このくてりと気怠げな白い肢体のやたらと淫猥な雰囲気は、まさしくそれだ。ヤッた後は、青峰も幾らか発散して満足した後でもあるので、それ以上の行為をするかどうかは、自身の欲や黒子の様子次第になるけれど。
 とりあえず今の状況はまだヤる前である。
 淫靡にべたついている白い性器のくびれを親指でぬるりと擦り撫で、喘ぐ黒子の濡れた唇を舐めて黒子の舌を誘う。
「ん……っ、は、ぁお峰、く……
 緩慢ゆえによけいに甘ったるく感じられる動きで、黒子は青峰に舌を添わせてくる。
 黒子がこんな青峰にヤられた後のような青峰次第の雰囲気を漂わせていると、ヤる前の青峰としては、当然エレクトしてアレでソレだ。手淫にもなっていない黒子の手でここまで猛っている青峰自身の欲望に従うならば、この黒子にガっついて突っ込めばいいのだろう、が。
 (……つーか、こいつ……ヤっても平気かよ……?)
 今さらだが、それが心配になってきていた。
 少し仮眠しましたと黒子は言っていたが、試合直後は立てなくなるほども消耗していたのである。自販機コーナーまで一人で歩いて来たようだが、この部屋に連れ込むまでの歩調はやはり少し危なっかしく見えた。
 といって、ここまできて中断するという選択肢は青峰の中ではありえない。
(一応、勃ってっし)
 青峰の片手に弄られている黒子の白い性器は勃起している。先走りをいやらしくトロつかせて、青峰の指をべたりと濡らしている。ただ、気になるのは、先刻から青峰が弄ってやっているわりには射精まで昇り詰めない。焦らしているつもりは青峰にないから、これは黒子の疲労状態と無関係ではなさそうだ。
 それでも、萎えているわけではない。丁寧に後ろを慣らしてやればなんとかいけるだろ――と巡らして、青峰はマズイことに気付いた。
「あ」
……?」
「あー……ヤベっ、今さら気付いて、わりぃんだけどよ」
「? なんでしょう……?」
「俺、ゴム、持ってねぇわ」
――
 黒子が数秒ほど青峰をまじと見あげた。それから他人事のような感想を言う。
「この状況でそんな物があったら、すごく驚きますね」
……生でヤっちまうぞ」
「わかってます。君がそれでもいいのなら、僕もそれでかまいません」
――。テツ、俺は、むしろ、いつも生でヤりた……
「殴りますよ」
 苦笑しつつ、青峰は黒子を両腕で囲い抱く。白いうなじを前から覗き込み、そこを唇で撫でるように甘くはんだ。
「ローションもゴムもねーって、たぶん、すげー辛ぇぞ」
「わかってます」
「テツ……
 ローションがあるのが一番楽なのは言うまでもない。ローションがなくてもコンドームがあれば、その付属された潤滑剤が少量とはいえ使える。だが、両方ともないとなれば、互いの体液でなんとかするしかなくなる。
 例えば、唾液や、精液や、あるいは――

「っ……っ、ンッ」
 黒子の先走りで濡れた青峰の指が、白い臀部を割って奥まった孔を探る。
 指に熱く絡むやわらかなそこの久しぶりの感触に、青峰は生唾を呑んで喉を鳴らすが。
(やっぱ、キツいだろ、これ)
 広げようとしても。掻き回そうとしても。不自由で余裕のなさそうな頑なさが、どうしても否定できない。
 それでも、無理に広げようとすると、黒子が小さな悲鳴をあげて青峰にしがみ付く。
「ぃッ……あ、ッ」
 髪を撫でたり、肌に口付けたり、青峰は黒子を慣らしながらなるべく宥めてはやるけれど。潤滑させるものが絶対的に足らないし、今は帝光中の頃のように頻繁に交わしているわけではなく、黒子のそこがこういった行為に慣れていない。なにしろ、最後にしたのは四ヶ月も前だ。
 そりゃ、こうなるよな、と思う。
 期間があくと内壁のキツさが戻ってしまうのは、半年前にこの部屋で黒子を抱いた際に思い知ったが。あのときはコンドームがあったから、少しはマシだったとも言える。今はそれすらもない。
 とりあえず青峰の指二本あたりが潤滑剤なしの限界に近いらしくて、三本目なんて入れたら、泣かれてしまいそうだ。それはそれでかぁいいだろうけどよ、などと言ったら今度こそ殴られるだろう。とにかく指が三本入るくらいでないと、膨張した青峰を挿入するのはキツイはずである。根気よく慣らしてやるしか方法はないのだろう。
 とはいえ、先刻から青峰の股間のモノはもうはち切れんばかりに猛っていて、己の腹筋に付きそうな勢いで反り返っていた。そう忍耐強く我慢もしていられない状態である。もう、とっとと目の前のこいつに突っ込んで犯ってしまいたいのが、青峰の欲望の本音なのだが。
――。仕方ねーな)

「テツ、ちっと、手ぇかして」
「手……?」
 小首を傾げる黒子の片手を甲側からつかみ、青峰はそれを自分の股間へと誘導する。
……!」
「俺、先に一回出してぇからよ。さっきの続き、頼むわ」
 先刻、黒子にして貰っていた手淫の続きだ。今の黒子ではまともに手淫もできなさそうだから、その黒子の手ごと自分で扱こうと、青峰は黒子の手とともに自身を握る。
「っ、青、峰く」
 一回、それでヌいておけば、青峰に幾らかの余裕ができる。黒子を慣らすのに、もう少し時間をかけられる。
 ――そう思ったのだが。
 筋立つほども膨張している青峰の欲の肉茎に触れた黒子の指が、そこでピクンと小さく跳ねて震えた。しかし、黒子が動いたのはそれだけで、青峰に乞われた手淫などは始めない。ただ青峰の手に握られて、青峰の欲に触れているだけだ。これは、手淫もまともにできないというよりも、全くしようとしていないだけだろう。
「? テツ」
 もしや嫌がられてる?と黒子をうかがうと、黒子が言った。
……青峰くん、これ――もうください」
「っ!」
 それは、つまり、手淫でヌくようなことはせず、このまま青峰を黒子に挿れてくれ、と。
 まさか黒子から挿入のおねだりをされるとは思わなかった。もちろん青峰もできるならそうしたいくらいに下肢が猛っているし、黒子にねだられたらよけいに滾るのだが。
「そうしてぇけど、テツん中、まだ絶対ぇキツいだろ」
 まともな潤滑剤もなくて、青峰の指二本にかかるこの狭い感じはどう考えても慣らしきれていない。その上、青峰の欲のほうはもうマックスに近いほど膨張しきっている状態だ。試合で疲労困憊に消耗しているだろう黒子の身体状態もかなり気になる。
「僕はもう大丈夫です……というか、あまり長引くと、僕の体力のほうがもたない気がします」
――
 だから、もう挿れてください、お願いします。
 眼を赤く腫らしている黒子にそんな懇願をされて、青峰が拒否しきれるわけがない。本当は今すぐにでもこいつに突っ込みたくて堪らないのは青峰のほうなのだ。
 どくりとしたものが己の下肢に集中してきて、喉が灼ける。
 欲情した己の呼吸を、青峰は己の鼓膜で聞いた。
……わーったよ」

 桐皇の黒いジャージの上着を床に広げて、その上に黒子を転がした。白い両脚をつかんで高くかかえ寄せる。そして、膨張した自身の先端を、黒子の奥まったそこに軽く押し付けてみる。が、たったそれだけでぞわりと誘われるものが青峰の背筋にそそり昇り、同時に、やっぱこれはヤベぇだろ、という予感もした。
 けれど、もう宛がってしまった自身の欲をこれ以上抑制できるはずもなく。犯したくて堪らないそこへ突き挿れた。
「ッ、ッ……――ッ、ア」
 狭く、キツく、痛みすら感じるのに。
 いつもの薄膜がない生身のせいなのか、その熱い内壁と擦れ合ったところからもうぴりぴりとした快感の痺れが青峰に巡る。それは、猛っている下肢から背筋、脳内までも熱く浸透して、さらなる欲の追求を青峰に促してくる。
 黒子の様子を見て少しずつ進める、なんてできなかった。先端を埋め込んだくらいでは止められない。潤滑させるものが足りずに軋んでいるのを感じながら、硬く滾った自身で、その狭い内壁を無理に押し開き、奥まで突き犯してしまう。
「ッ……ぁッ、おみ……ッ」
 止められずに最後まで埋め込んでしまって、ハァッと満足と後悔の息を吐いて青峰は黒子を見遣る。
(テツ)

 青峰の想像と期待と予感は、おおむねその通りだったろう。
……あお、みね、く」
 くしゃりとよれている桐皇の黒いジャージの上に、投げ出されているかのような白い躰。
 淡い色素の眉をぎゅぅと辛そうに寄せて、黒子は涙を左右に散らしている。腫れぼったいその目元は赤いのに、汗まみれの顔は蒼白に近い。青峰を呼ぶ唇は弱々しく震えている。
「あお、峰、くん」
 この圧迫して軋んでいる感じ。
 狭いところがあまり広がっておらず、青峰を受け入れている結合の入口には寸分の余裕もなかった。犯している内部は潤滑させるものが足らず、肉が擦れ合うと青峰にすらも削られるような痛みがある。青峰がこれほどキツく感じるのだから、黒子はもっと辛いはず。その証拠に、挿入前は勃起していたはずの白い性器がもうかなり萎えている。
(ホラ見ろ、やっぱ、こうなるじゃねーか……!)
 半年前にここで黒子を抱いたときの、あのキツさを思い起こす。だが、狭くても、キツくても、今日は最初に奥まで突っ込めてしまえたことを思うと、あのときほどの閉ざされて拒まれている感じではなかった。疲労で黒子の躰が弛緩しているせいかもしれない。
 だが、どちらにせよ、黒子が辛そうなのは変わらない。
……青、峰くん」
 あのときは後背位で黒子の顔などほとんど見えなかったが、正常位のこの体位だとまともに見おろせてしまう。その泣き濡れた辛そうな表情が青峰の視界に映る。
(けど、俺はやめてやんねーぞ……っ)
 こいつが青峰に挿れてくれと言ったのだ。
 もう挿れてしまったし、今さらやめてなどやれない。黒子がどんなに辛そうでも、青峰は埋め込んだモノを抜いてやらないし、抜いてやれないし、正直、抜きたくない。
 それどころかすぐにも突き上げたい。青峰を埋め込まれて痛いほども軋んでいるこの奥部を惨く抉って、めちゃくちゃに動いてしまいたい。眼下のこいつをもっと存分に犯したくて堪らなくて、青峰の渇いた喉と背筋がぞわぞわしている。
「青峰、くん……
――
 先刻から、涙いっぱいの顔で見あげてくる黒子が、青峰を何度も呼ぶ。青峰に何か言いたいらしい。
 だが、青峰には黒子が言いたいことの予想がついている。この状態では黒子がそう言うのも無理もないが、青峰はどれも聞いてやれない。
(『抜いてください』だろ? 『やめましょう』かよ? それとも、やっぱ、アレだ、『もういやです』とか……
 どれだろうか、とぐるぐる巡らしながら、俺はどれもきいてやらねーぞ、と青峰は黒子のほうへと上体を少し屈めた。
「何だよ?」
「青峰くん……
 青峰が屈んで近づいたからか、黒子が青峰を見詰めて少し嬉しそうに泣き笑った。


……好き、です」


「は」
 ぐるぐると巡らしていた思考が、真っ白に消えた。黒子の顔を見おろし、青峰は三度またたく。
 その後、どくっ、とした脈動とともに熱湯のような血液が下肢から一気に逆流した。既に十分膨張していたはずの欲の肉塊が、青峰もはっきりと自覚できてしまうほどの更なる質量を黒子の内部でぐぐりと反り返って増長させる。
「ぅ、あっ」
 黒子の小さな悲鳴を聞いて青峰は我に返ったが、膨張した自身はやはりその大きさで黒子を苛めていた。青峰の眼下で身を震わせて堪えている黒子に、オイッ、とあわてる。
「バ……ッカ、が! 辛ぇくせに、煽ってんじゃねぇっ」
「? あおって……
 危うくイきそうになったじゃねぇか、とは言わないでおく。
 もっとも、黒子にとっては、いっそこれで青峰が達していたほうが楽だったのかもしれない。だが、さすがにそれは青峰としては納得し難い。
……僕、煽った、んですか?」
「そうだ、って」
 ――たった一言に、イっちまいそうになりましたよ。
 わかっているのか、いないのか。「そうなんですか」と、いつもの淡々とした様子で首を傾げた後、黒子は青峰に向けて気怠げに両腕を伸ばしてきた。
「青峰くん」
 抱き上げて欲しいのか、と青峰は桐皇のジャージの上から黒子を抱き起こす。このまま座位に姿勢を変えてやるかと黒子の腕を青峰の肩首にしがみ付かせていたら。
 その腕に少し力を込めて、黒子が青峰の耳元でまた言った。
「君が好き……だっ」
「っ」
 ああ、くっそっ、もう知らねぇぞっ、と青峰は座位にさせるはずだった黒子の背中をそばの横壁にドンと押し付けた。
「ッ、あ」

 黒子の体重を壁に半分預けながら、白い脚を両腿裏から大胆に持ち上げ、下から黒子を突き上げた。
「ヒッ、あッ……ッ」
 みちりとした隙間のない内壁の狭さに青峰は眉間を顰めたが、もうあまりかまわない。
 続けて、二度、三度と、突き上げて、白い腰を壁際で派手に踊らせる。
「ぃッ、ァッ、あッ、ぅあ……ッ」
 突き上げる青峰の勢いと落下する重力とで互いの生身の肉が削り合うように擦れる。青峰に持ち上げられている細い両脚が、ガクガクと痙攣する。青峰の眼の前で、悲鳴のような嬌声がひっきりなしにあがる。濡れた白い性器は挿入前より萎えていて、青峰の律動に翻弄されて揺れている。
……テツ……ッ)
 自分の体力がもたないかもしれないからと、黒子は青峰に挿入を促した。そして、実際、この状態だ。青峰と繋がって黒子自身の性器は明らかに力を失っているし、今日の自分は射精まで至らないかも、と黒子は思っているのだろう。
 だから。
 黒子の二度目の「好き」は、わざとだ――青峰のための。煽っただの何だのと青峰が言ったから、青峰がこうして動きやすい理由を、黒子(自分)のせいという形で作ったのだろう。
(ホント、こいつは……よッ)
 振り回されていると思う。青峰をここまで振り回せるのはこいつだけだ。
「ッ、アッ、…ぉ、みね、くッ」

 一度目の告白は素で。
 二度目はわざと。
 そして、三度目は――

 怒張している自身の欲で思うままに黒子の奥を突き上げて黒子を啼かせ、やがて、その猛り狂う下肢から背筋へと駆け昇った射精感に青峰は笑った。
「ふッ、ッ……なー、テツ」
 ぶるりと襲い来る熱の解放のために律動を止める。黒子を腰で支えながら、青峰の前のひどく濡れた顔を片掌で包み、その唇をとても大事にはむ。
「テツ、好きだ」
……っ」

 三度目の告白は、青峰からだ。



以上、サンプルでした。
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『僕だけが見える青い空へ』サンプルでした。
序章+1〜9章+終章 という構成になっていて、
序章&終章は黒子視点、1〜9章は全て青峰視点で、全体的に青峰視点が中心です。

この後、青黒二人がシュート練習したり、黒子がついに青峰の家に行ったりします。
青峰さんがアレコレもやもや葛藤しつつ、テツを存分に可愛がったりしてます。基本的にはもう青黒の甘々なシーンばっかり……という感じです。まあ、シュート練ですしね!

『青の〜』シリーズとしてはここが到達点で、一応これでシリーズ最後となります。WebにUPしている部分だけでも(サンプルも含め)、通しで読めば普通に読める形にはしたつもりです。
これより未来の話は今のところ考えていません。原作が進めばまた書くかもしれませんが……
このシリーズの同一時間軸上っぽい帝光時代の過去話(『お前しか見えない』)を別途また書くつもりではいるんですけど、それは別にシリーズに含めなくてもいいかなぁと思っています。




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