五月末に雷とともに勢いよく降った雨があがった後、東京の六月初旬はからりと晴れたものになった。 制服を着用する都内の多くの学校では、生徒達の装いが冬服から夏服に一斉に変わる。ここ桐皇学園でもそれは同様だ。初夏の風に翻る女子の短いプリーツスカートは、一見、冬物とさほど変わらないが、やはり生地が違うのだろう、先月のものより幾らか軽やかそうだった。 「あっ、いた! もーっ、青峰君っ!」 夏服に変わったばかりの女子を眺める男子の眼には、色めいたものが幾らか混ざるものだ。 長い髪をなびかせて、すらりとした白い美脚をスカートの下に覗かせるこの桃井さつきなどは、まさに多くの男子生徒の視線を集めているに違いなかったが、 「……さつき、か」 パイプ梯子を登ってきた彼女は、青峰大輝にとってあまりにも見慣れ過ぎている幼馴染みなので、そういった新鮮な興味も、感動も、ほとんど湧かない。 「授業までサボって、またこんなトコに……っ!」 ここは、桐皇学園のクラブ用校舎屋上の一角である。本来は立入禁止なので、他に人影はない。 その立入禁止場所でのんびり寝そべっている青峰の目下の興味は、広げている雑誌の巻頭カラー写真、「堀北マイ」という巨乳グラビアアイドルだった。写真集まで持っているほどのファン……――のはずなのだが、こうして好みのアイドルの水着姿を眺めていても、最近はどうにも退屈しがちだ。少し飽きてきたのかもしれない。だが、盛大なあくびをしながらページをめくってみたところで、次ページの別のグラビアアイドルには、さらにもっと興味が湧かないのだ。 「出席日数が足らなくなって困っても、知らないんだから!」 「あー? 俺はバスケでガッコー入ってんだから、授業とか出席日数とか関係ねーだろ」 「関係ないわけないじゃない。だいたいそのバスケの練習もサボってばっかのくせにっ」 スポーツ特待生といえども既定の授業出席日数は必要である。桐皇学園では、二科目以上が足らなければ進学が認められずに留年となる。そして、バスケットボールのスポーツ特待生であるはずの青峰が、そのバスケの部活練習にあまり出ていないこともまた確かだった。 桃井の指摘は正しい。 が。 あー、あー、うるさ、と青峰は小指で片耳の穴を塞ぐ。 授業の件はともかく、部活練習に関しては、出ない理由が青峰にはあるのだ。 「試合じゃ、俺は誰よりも結果を出してるだろーが」 「それは……そうだけど……!」 納得できないという顔で桃井は眉を顰め、ぷぅと頬を膨らました。 青峰にとって何よりも譲れないのがバスケであり、練習をすればするほどそのバスケを楽しめなくなる最低の現状がある以上、こうするしか他にない。だから、練習には出なくてもいいという条件で、青峰は桐皇に入った。青峰なりに、この現状下で可能な限りまともなバスケをしようとしているだけなのだ。何よりも好きなバスケを――青峰にとって己の血肉であり、糧であり、生きる意味そのものでもあるバスケを――これ以上つまらないものにしたくないだけ。 「結果さえ出してりゃ、いーんだよ」 だが、バスケを楽しみたいからこそバスケをしない毎日は、青峰を腐らせる。 桐皇に入ったときの条件通りに、今の青峰は気まぐれでしか部の練習に顔を出さない。試合には比較的出ているほうだが、青峰がわざと遅刻をしたり途中で抜けたりして相手側にハンデを与えねば、ろくな試合にならなかった。相手があまりにも弱小校の場合は、仮病をうそぶいて試合に出ないことすらある。 桃井は「またサボって!」と文句を言うが。 あきらめた相手とする勝負ほど、つまらないものはない。青峰が本気でバスケをすれば、あまりに大きく開く点差が相手の戦う意思を削ぎ、バスケを続ける心までもへし折る。棒立ちのようになった連中の間を通り過ぎて、青峰一人だけがボールを繰って延々と点を取り続ける。そんなろくでもない状況を、青峰は何度も経験している。 『青峰君よりすごい人なんて、すぐ現れますよ』 そう言ってくれた存在が、かつては青峰のそばにいた。 けれど、彼のその言葉は果たされていない。この先も、きっと果たされないだろう。 強敵を前にし、全身の血肉を沸き滾らせるほども一心不乱にバスケをする……どちらが勝つかわからないギリギリのクロスゲーム。そんな瞬間を渇望しながら、青峰はもうここずっとそれを得られずにいる。こうして相手にハンデを与えてもなお、青峰に勝てるのは青峰しかいないのだ。 興味の湧かないグラビアアイドルのページとともに雑誌を閉じ、バサリと無造作に放った。 ふぁーあ、と今日何度目になるのかもわからないあくびをして、また昼寝でもすっか、と青峰は腕を枕に目を閉じる。この春――具体的には、四月末頃――からずっと、青峰の機嫌は荒みがちの低空飛行だ。そのイラつきを抑えるためもあって、こうして誰もいないところでよく昼寝をしている。 「あ、ちょっと、青峰君っ? 寝ないでっ!」 桃井の声が聞こえたが、とりあえずそれは無視した。 初夏の風がザザと屋上に吹きつけて、青峰の頬と耳先を擦り撫でていく。 目を閉じていると、時折、青峰の脳裏に浮かび上がる。 キュッキュッと床を鋭利に踏み鳴らすバッシュのスキール音。 周囲の興奮した喧騒と烈しい掛け声。 敵味方十人の白熱した気概に満ちたコート。 「ボールを!」と思ったその瞬間、青峰の手中に吸い付くように飛び込んでくる疾風のようなパス。青峰が欲しいと望めば、必ず欲しいところに一瞬で来る。寸分の狂いもなく、鳥肌が立つほどドンピシャリの位置とタイミングだ。それに青峰はいっそう奮い立って笑い、ボールを繰って疾る。だから、彼からパスを貰った後は絶対に点を取った。 最高の瞬間だった。 (――テツ) だが、やがて、青峰のバスケは彼のパスを必要としなくなった。 勝つことこそ全て。バスケに限らず、それは、どんな球技、どんなスポーツでも同じだろう。 青峰一人で勝てる、いや、むしろ青峰だけのほうがより確実に効率的に勝てるのだから、己のみでバスケをする道を選んだ青峰は正しい。 そこに青峰の後悔はなかった。 だけど。 (――……っ、テツ?) 軽く振り向こうとすると、いつも青峰の斜め少し後ろにいたはずの存在が、今、いない。 青峰が伸ばした拳にこつりと拳を触れ合わせていたその存在が、気付けば、消えていた。 そのことに喪失感を覚えてしまうのを、青峰は否定できない。 彼からパスを受けていた頃の――バスケを心から楽しんでいたあの頃の青峰の日々は、あれほど輝かしく心躍るものだったのに。今の青峰の毎日はひどく億劫で退屈だった。何に対しても興味を持てず、些細なことにイラついて、気分がどこまでも荒んでいく。 バスケを最も楽しんでいたあの頃に青峰のそばにいたのが、彼だったせいだろうか。彼がいないこととバスケを楽しめなくなったこと、その二つが――本来は無関係のはずなのに――あたかも同質のものとして絡んでいるかのようで、青峰をイラ立たせる。 四月末からずっと、それが青峰の中でどうしようもなく燻っているのだ。 (……ッ、……) 喪失感そのものは桐皇に入る前からあった。彼が青峰のそばからいなくなったのは、もう少し前のことだから。でも、それは仕方ないことだと思っていたし、青峰なりにその件は割り切ったつもりでいた。 つもりでいたのに。 「もーっ、起きて! 青峰君ッ!」 桃井の甲高い呼び声に、意識を引き戻される。 「暇そうに寝ないでよ! 練習に出ない気なら、これくらい見て!」 うっせーな、と思いつつ、「これくらい見て」という桃井の言葉に青峰は瞼をあげた。 途端、 「ッ、ぅおッ!」 眼前に降ってくる四角い物体。さすがに意表を突かれた。 腕枕を外して半ば身を起し、青峰の顔面にぶつかる寸前のところでその降下物を受け止める。 「いきなり投げんなよ! ……ンだよ、これ?」 桃井から投げ渡されたその四角いプラスチックケースのものは、見たところ、DVDのようである。 「テツ君とことミドリンとこの試合」 「あ?」 「部室にあるビデオじゃ、青峰君、見に来ないじゃん。それに焼いておいたから、見といて! すんごくいい試合だったんだから!」 舌打ちしながら上体を起こした青峰は、渡されたDVDを、はーぁ、と眺める。 部室にあるビデオでは見に来ない、と桃井に言われた通りではあるが。 本当に見たいと思えば、こんなことされなくても部室のビデオだろうが何だろが青峰は勝手に見に行く。誠凛高校に行った彼、黒子テツヤにしても、秀徳高校に行った緑間真太郎にしても、かつてのチームメイトなのだ。試合の結果はもう聞いているし、どんな試合をしたかくらい、青峰は想像できる。 「ンなの、別に見なくてもいーだろ」 めんどくせー、と青峰はまたもあくびをしかけたが。 「テツ君の新しい光――火神大我君って人ね、」 ぴく、と青峰の片眉が蠢いた。 あくびのために開きかけた口を、青峰は途中で閉じる。 「ビデオ見て、びっくりした……昔の青峰君にものすごく似てる」 「ッ?」 「あっ、顔とかじゃなくてね。もちろん、テツ君としてる彼のバスケのこと。ホントそっくりだった」 「――……ッ」 「だから、一度、見といて」 誠凛高校に進学した黒子テツヤがそこのバスケ部で「新しい光」を得たことは、青峰も知っている。 黄瀬涼太や緑間真太郎から得た情報だ。桃井がせっせと聞き出してくるのである。桃井は桐皇バスケ部のマネージャーとして各校の情報収集をしていて、黒子や他のキセキ達の状況を調べるのもその一環だ。そのついでに、青峰も彼等と携帯電話で幾らか言葉を交わすこともある。 それで、先日、誠凛に負けた秀徳の緑間と軽く話をしたばかりだ。「せいぜい決勝リーグでは気をつけるのだよ」などと、緑間は的外れなことを言っていたが。 「正邦と秀徳の王者二連戦に勝ち残った番狂わせで、新設校ながら、テツ君とこの誠凛は今回の決勝リーグの注目株よね。中でも一年生エースの火神君は要注意で――……」 ――「黒子の光」。 帝光中時代、黒子は青峰だけにパスを送っていたわけではない。 キセキの世代と呼ばれる五人は、いずれも他チームに行けば即刻エース扱いされるだろう天才的な選手で、五人全員が黒子の光役に成り得た。それでも、他の誰でもなく青峰こそが「黒子の光」だとキセキ内で認識されていたのは、青峰が段違いなほど多く彼のパスを受けていたこと、そして、当時の二人がバスケにおいてはチーム内の誰よりも噛み合っていた、つまり息と気が合っていたからだろう。コンビなどを組まされていたわけではなかったのに、スコアラーとパサーの相棒同士だという認識が二人の間で自然にできていた。 (――……) それに、あの頃は、バスケ以外でも、二人はすごく近くに在った。 『青峰君』 青峰よりだいぶ低い黒子の背肩、白く華奢な首筋、静かに見上げてくる澄んだ大きな瞳。 互いが特別で、バスケ三昧の日々の合間に、二人きりの時間も何度かすごした。 やがて青峰が黒子からのパスを必要としなくなり、バスケで黒子と拳を触れ合わせることがなくなっても、青峰はバスケ外のところで黒子の手を放したつもりはない。少なくとも、青峰としてはそうだった。 だが、帝光が全中三連覇した直後――青峰は黒子を失った。 「私、今日はものすごーく重要な買い物があるから、もう行くけど。それ、ちゃんと見といてよね!」 「あ? ものすごく重要な買い物……?」 ってなんだよ、と桃井に訊けば。 「今年の新作水着を買いに行くのー!」 「はァ?」 桃井はポっと顔を赤らめて、その染まった頬に嬉しそうに両手を当てる。 「だってぇー、久しぶりに会いに行くんだもんっ。絶対、絶対、新しい水着にしなくっちゃ!」 きゃー、どんなのにしよー、やっぱりダイタンなやつかな? それとも清楚路線でいくー? ……と桃井は独りで盛り上がって、自分の空想にきゃぁきゃぁと騒いでいる。 桃井がこれから水着を買いに行くのはわかったが、どうしてそれが「ものすごく重要な買い物」なのか、青峰には理解不能だ。まー、もう夏になるし、さつきもジョシコーセーってやつなんだろ、と適当に納得することにした。 「だから、私、今日は忙しーの! とにかく、練習サボるんなら、それくらい見といて!」 DVDを見ろと再三の念押しをして、桃井はパイプ梯子を降りていく。 耳をほじくりながら、へーへー、と青峰は桃井を見送ったが、桃井の姿が見えなくなると、屋上のコンクリートに再びごろりと寝転がった。 (……うぜー……って) イライラする。 うるさい幼馴染みはいなくなったが、その桃井から渡されたDVDが青峰の手にある。 目の前にかざしてみると、透明ケース内の銀色の円盤が初夏の光に眩しく反射する。 めんどくせー、こんなの見る必要ねーだろ、と思うのに。 先刻まで青峰が開いていた雑誌のように、興味ねーわ、と容易く投げ放れない。 このDVDには、黒子と緑間の試合が映っている……いや、黒子と彼の「新しい光」となった火神とやらが映っている。 黒子に「新しい光」ができたという話は、四月末に行われた誠凛高校と海常高校の練習試合後に聞いた。 桃井が携帯電話で黄瀬から聞き出した。そのついでに青峰も黄瀬と電話越しに話した。 そのときからだ、バスケを楽しめない青峰のイラ立ちが、さらにじりじりとひどくなったのは。 (……あー、クソうぜー……) パサーである黒子の光役は一人に固定化されたものではない。チーム内の誰がなっても、何人がなってもいい。ポジションに寄る差があるとはいえ、帝光中では試合に出ている黒子以外の全員がその光役をしていた。新設だが決勝リーグに出るような高校なのだから、誠凛でもその形に近いはず。 にもかかわらず、黄瀬も、緑間も、桃井もだ、誠凛において火神という男こそが――火神だけが――「黒子の新しい光」だとはっきり認識している。それは火神が誠凛のエースとして扱われていることにも関係しているが、火神が黒子のパスを一番多く受けていて、黒子との連携プレーが一番多いからだろう。つまり、黒子にとってかつての青峰のような存在に今の火神がなっている、ということだ。もちろん、黒子は火神をそのように扱っているはずで、そして黄瀬達の目にもまさしくそう映ったのだろう。 (……ッ、マジうぜー……わ) 影である黒子のバスケには、光役として点を取る誰かがどうしても必要だ。その光役はエースやスコアラーが当然なりやすく、火神が誠凛のエースならば実に自然な流れだと言える。 そんなことは青峰もよくわかっているのに。 「黒子の新しい光」という響きに、どうしてだか、ひどくイラ立つ。そんな理不尽な感情を燻らせる己にもまた吐き気がするほどムカつく。 「……ク、っソ……ッ」 もう少し昼寝するつもりでいたのに。 じっとしておれなくなり、青峰は寝転がっていた身を勢いよく起した。 が、手元のDVDはやはり投げ放れない。 帝光の全中三連覇後――黒子はバスケ部を突然に辞めて姿を消した。 全中後に三年生が引退するのは当然のことだが、帝光中バスケ部の一軍はスカウトや推薦で高校に進学する者がほとんどである。加えて、バスケ部の施設は贅沢なほど充実している。だから、引退しても部に顔を出して、後輩を指導しながら気楽にバスケをしている者達が大半だ。 だが、黒子ははっきりと退部をし、バスケ部には一切姿を見せなくなった。青峰の前にすらも。 授業には出ていたはずだから、黒子テツヤという人間そのものが帝光中学からいなくなったわけではない。もともと影が薄く、しかも視線誘導(ミスディレクション)を極めていて、人間観察に長けていた黒子だ。本気になれば、卒業まで帝光中に通いながらも、キセキ達や他のバスケ部員の目に留まらないよう姿をくらますことくらい可能だったのだろう。 それに、青峰は、姿を見せなくなった黒子をあえて捜そうとしなかった。もちろん気にはしていたが、黒子をそうさせてしまったのは自分のせいだと思っていたから。 己一人でバスケをするようになっていても、青峰はバスケ外のところで黒子の手を放したつもりはない。しかし、二人はバスケがきっかけで繋がった関係だ。そのバスケにおいて二人の手が離れ、互いの意思疎通がとうに無くなってしまっていたのだから、二人の関係がまともに続くはずがなかった。 黒子が黙って姿を消して、青峰はそれを思い知らされた。 (――テツ……) あれほどバスケ好きだった奴が、そのバスケをやめた。そして、バスケ部員達に姿を全く見せない。 黒子は三軍だった一年のときにもバスケ部を辞めようとしたことがあるが、そのときは、青峰だけにはちゃんと事情を伝えに来たのだ。だが、今度は青峰の前にすらきっぱりと姿を見せない。よほどの想いや覚悟があっての決断だろう。 だから、なおさら青峰は黒子を捜せなかった。 黒子が都内の誠凛高校に進学するらしいことは桃井が調べていたが、誠凛は昨年開校したばかりの新設校で、バスケ部も強豪とはほど遠い。まともなバスケ指導者すらもいないとか。だから、黒子はもうバスケをしないつもりなのだろうと思っていた。 だが、四月になって各人が高校生になり、黒子が誠凛でバスケ部に入ったらしいという情報が桃井から他のキセキ達にも流れた。 新設の無名校とはいえ、黒子がそこでまたバスケをしていると知って、青峰はどことなく嬉しかった。密かに安堵もした。 黒子のことを気にしていた他のキセキ達も、おそらく同様だろう。 『誠凛なら、俺、電車ですぐ行ける距離っス。今度、様子を見に行ってみるっスよ!』 『まったく、気に入らないのだよ。黒子ほどの男がそんな無名校に行くとは。人事を尽くしてない』 『東京の誠凛……? んー、それはどーでもいーけどー、俺、黒ちんとお菓子の話がしたい……』 『とりあえず安心したよ。テツヤもあのときの誓いは忘れてないようだね』 黒子はあんなにバスケ好きだったのだ。その黒子がまたバスケをする気になったのなら、よかったと、青峰は思ったのに。 四月末、誠凛と海常の間で行われた練習試合後である。桃井と電話を代わったら、その携帯電話越しに黄瀬が喚いていた。 『だから! 誠凛には黒子っちの「新しい光」がいるっスよ! 無名の新設校じゃ、黒子っちの力が宝の持ち腐れになってるだろうと思って……そうなら、俺、黒子っちを海常に呼ぶつもりだったんだけど。黒子っちと火神っち――黒子っちの「新しい光」に負けたっス。もちろん、今度は公式戦でリベンジするつもりっスよ。ただ、東京地区には青峰っちと緑間っちがいるから、今の誠凛だとインターハイ出場は難しいかも……――って、ちょっと、青峰っち、聞いてるっスか? 青峰っち!』 (っ……ちっちっちっち、うっせーんだよ、黄瀬) 『黒子っちの「新しい光」と言っても、キセキの世代と比べたら、そりゃ、まだまだ粗削りで発展途上な奴っス。でも、アイツの才能には、キセキと同等クラスのものを感じたっスよ』 黄瀬の言葉遣いなんて帝光中時代に聞き慣れたものだから、いつもなら気にならない。なのに、そのときは、なぜか耳障りで、煩わしくて、青峰をイラつかせてならなかった。いや、青峰がイラついていたのは、黄瀬の声で繰り返されていた「黒子っちの新しい光」という言葉のほうだろう。 そのイラつきがバスケをまともにできない鬱憤と絡んで、ここずっと青峰の中で地味に燻っている。 そして、今日、桃井が言ったこと。 『テツ君の新しい光――火神大我君って人ね、昔の青峰君にものすごく似てる』 イラつきの火種に油を注がれたかのような心地だ。 『ホントそっくりだった』 青峰は黒子の手を放したつもりはなかった。 でも、いなくなった黒子のことを、仕方ないのだと割り切ろうとしていた。 ただでさえ、青峰には黒子がいないその喪失感があるのに。 (……テツ……てめぇ……ッ) 青峰の前から姿を消した黒子は、青峰のいないところで「新しい光」を見つけ、しかも、その「新しい光」は、過去の青峰に似ている、そっくりだと。 「昔の俺とそっくりって……ハハ……ッ、ンだよ、ソレッ」 青峰の脳髄の奥がキリリと軋む。イラつく心地が沸騰する。それでいて腹のほうは兇悪に底冷える。 ピキと小さな音がして、手元のDVDを見遣れば、プラスチックケースにヒビが入っていた。強く掴み過ぎていたらしい。 黒子は自分だけでは点を取れない。 だから、黒子がバスケをする以上、誰かが黒子の光役をするのは必然だ。 しかし、黒子が昔の青峰のような男を「新しい光」として選んだのだとしたら、それは、つまり、今の青峰を否定しているから、ということなのだろう。 「っ、ざ……けんなッッ」 |
| FIN |
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